映像IOTによる鋼矢板止水工の事故防止策の報告

【01】映像IOT矢板事故防止策 <序~概要>

 

報告者 可児建設    可児憲生
環境風土テクノ 須田清隆
立命館大学   建山和由

 

1.序

本事業は、平成29年度 庄内川大蟷螂低水護岸工事の自立式鋼矢板の倒壊による事故防止策としで実施した映像と計測のIOT化による情報化施工(IOT施工〉について報告するものである。

本施工では、仮締切のため自立式鋼矢板による一重締切が採用されているが、施工前の設計照査で、過年度の先行工事での鋼矢板の倒壊事故が複数発生しており本工事でも倒壊などが懸念された。

そのため、自立式鋼矢板の倒壊対策として当該地域の地盤条件の不均質性や干満による水位変動など不確定要因も大きいことと、昼夜を通して倒壊リスクが想定されたことら、リアルタイム映像と自動測定の組み合わせによる情報化施工を実施している。

情報化施工の実施により、事前に設定された自立式鋼矢板の頂部の許容変位(不安定化基準)120㎜(3. 95m×3%)※1に対して200㎜近い変位を記録したが、適宜対策を講じ、施工の安全性を確保した。

※1河川構造物設計要領 h 28. II 中部地方整備局 p4 ₋1₋19・自立式鋼矢板(仮設)


2.鋼矢板支持地盤概要

図 1に仮締切部における土質柱状図を示す。
図1 <土質柱状図>


土質種類およびN値より設定した物性値を表1に示す。
表1 <地盤物性値>


図2 <鋼矢板圧入圧分布>

上流部から鋼矢板全長の1/4程度の地盤が、圧入圧から推定すると弱層部が深く分布していることが確認できる。

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2018年04月02日

【02】映像IOT矢板事故防止策 <情報化施工内容>

 

3.情報化施工内容

情報化施工で採用したモニタリング項目およびその目的を表-2に示す。

鋼矢板の安定性管理は主に鋼矢板頭部の変位計測にて行い、鋼矢板に生じるひずみ量の計測は、部材に作用する荷重モードを推定するものとした。鋼矢板頭部連結材のひずみは、上下流方向の土質条件の違いによる鋼矢板の二次元効果を把握するために行う。

表 2 <モニタリング項目>
計測管理項目 計測箇所 計測目的 管理値
鋼矢板水平変位 鋼矢板頭部
3ヶ所
鋼矢板の安定性確認 12cm
鋼矢板ひずみ 鉛直方向
1側線
鋼矢板に作用する荷重
・変形モードを推定
---
連結鋼材ひずみ 水平方向
1側線
鋼矢板止水壁の
二次元効果を確認
---
水位 仮締切内外
計2ヶ所
作用水圧の確認
(水位変動)
---

図3 <計測項目と計測位置>



表3 <計器仕様>
ひずみゲージ 【  型 式  】KCW
【設 置 方 法】耐水用点溶接方式
【ケーブル長】5m
【入出力抵抗】約350Ω
【 耐水圧 】約10MPa

レーザー変位計 【  型 式  】DT500-A511
【測 定 範 囲】0.2~70m
【  出 力  】4~20mA
【測 定 精 度】±3mm
【スポット径】70m時 約100mm


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2018年04月02日

【03】映像IOT矢板事故防止策 <管理方法>

 

4.管理方法

 <レーザー変位計>

<遠隔画面>


5.映像管理

ネットワークカメラを設置して、遠隔からの現場臨場を映像で補完し、PCや携帯電話でのコミュニケーション環境を構築している。
また、計測データの異常が確認された時の現地の模様を記録された映像で振り返りを容易にし、工事トラブルが発生する前に対策を講じ事故予防を支援している。

<遠隔カネラリアル映像>


<本社管理部門の見守り【第三の目】>



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2018年04月02日

【04】映像IOT矢板事故防止策 <変位管理1>

 

6.変位管理

(A)水位変動について
日変化では、鋼矢板の両面の水位差が、潮位変化に影響し、最大変位が発生するのが早朝や休日にも発生することが確認できた。
また水位履歴では、3月初旬に2Mを超え、最小水位差がほぼ0Mで推移している。また、大雨時に0.5M程度の水位上昇が確認される。

図6 鋼矢板水位差経緯


(B)鋼矢板頂部の変位履歴

鋼矢板頂部の変位の変位については、最大、最小の両水位差で上流側が下流側に比べて3倍に近い変位を計測され、上流側は3月に入ってから管理基準(破壊基準)の120㎜を超える数値を維持している。
また、3月初旬の大雨時の水位上昇時に、急激に変位量を大きくするなど荷重の増分に敏感に反応していることが観察された。

図7-1 日最大変位測定図 上流側、中間部、下流側水平変位

図7-2 日最小変位測定図 上流側、中間部、下流側水平変位


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2018年04月02日

【05】映像IOT矢板事故防止策 <変位管理2>

 

(C)変形性能
変形性能は、50㎜で相当水位差が上流側は1.25ḿ/50㎜と、中間点1.50 ḿ/50㎜、下流側1.85 ḿ/50㎜であり、上流側が塑性化の傾向が強いことが確認できる。
下流側に比べ上流側の変形性能は、1.85/1.25=1.5倍と塑性進行が速いことが確認できる。

変位-水圧履歴図からは、水位1.25mで初期で50㎜の変位が、一回の荷重開放で80㎜残留しており、塑性化が強く表れていることが推察される。

上流側では、既に管理基準点(破壊基準点)を超えており、施工時においてはより安全性の対策が必要になる。
なお、鋼矢板の動態計測結果は、随時発注者に報告しており、上流部地盤の不安全性については確認されている。

図8 変位‐水位履歴図<上流側水圧変位曲線>

図8 変位‐水位履歴図<中間部水圧変位曲線>

図8 変位‐水位履歴図<下流側水圧変位曲線>

図8 変位‐水位履歴図<3地点水圧変位曲線>


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2018年04月02日

【06】映像IOT矢板事故防止策 <情報化施工>

 

7.情報化施工

上記結果を踏まえて、現状の変位に対する適当な地盤物性を計算すると、設計の物性に比べてかなり低い物性を想定しないと、現状の変位があてはならないことが考察される。

また、仮に物性の評価が異なれば、原設計の根入れ不足も発生し転倒リスクが高まることは否めない。
特に上流部の計測結果からは、大汐のサイクルで発生変位の塑性化により残留変位が地盤中に蓄積され、地盤の破壊の進行が推察された。

そのため上流部の掘削による応力開放による地盤の緩みを迅速に改善する必要があり、上流部の工程先行により荷重負担を抑制する方策を講じている。

同時に、根入れ部の地盤に影響する水替え工に必要になる釜場の設置は、可能な限り鋼矢板から離し、掘削による地盤の剛性低下やポンプアップによる急激な限界勾配への配慮を徹底して施工管理している。


8.最後に

なお、今回の情報化施工により地盤の破壊挙動を予測ができたことと、早朝や休日で現場不在時でも、IOT化で異常値の発生を適宜映像で遠隔監視できたことが迅速な措置に繋がり最大リスクを回避できたこと意義は大きいと考える。


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2018年04月02日